最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)3876号 判決 1955年4月26日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
被告人の上告趣意について。
論旨は事実誤認の主張に帰し適法な上告理由とならない。
弁護人岸達也の上告趣意第一点について。
所論被告人に対する供述調書は第一審において他の証拠がすべて取調べられた後の第一〇、一一番目に取調べられている。従ってこの点において所論のような違法も判例違反も存しない。論旨は誤った事実を前提とする主張であって採用し難い。
同第二点について。
論旨は単なる訴訟法違反の主張であって適法な上告理由とならない。のみならず被告人は第一審第二回公判における被告事件に対する陳述において「事実は読み聞けの通り相違なく有罪でありますので別に意見弁解はありません」と述べている。従って刑訴二九一条の二にいう「有罪である旨の陳述」があったものと認められる。所論刑訴規則一九七条の二の手続の履践については、公判調書の記載要件でないから、その記載がなかったからとて履践なかったものと断定することはできない。論旨は更らに本件においては普通の公判手続を経由しているというが、公判調書によれば、そうでなくて簡易手続により審判されていることがわかる。
同第三点について。
論旨は単なる法令違反の主張であって刑訴四〇五条の定める上告理由にあたらない。(所論前発罪と後発罪とは併合罪の関係に立つものではないから刑法五〇条を適用すべき余地はない。)
また記録を精査しても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条一八一条により主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)